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個人根保証契約の「極度額」設定ルールについて 特に賃貸借契約の連帯保証人の責任

2019.10.15

個人根保証契約の「極度額」設定ルールについて
特に賃貸借契約の連帯保証人の責任

令和元年 10月 6日

〒604-0991
京都市中京区寺町通竹屋町上ル行願寺門前町2-2
こもだ法律事務所
弁護士 薦 田 純 一
TEL 075-253-1192 ・ FAX 075-211-4919

  1. 平成29年5月26日に可決成立した「民法改正案」は、同年6月2日に交付され、来年令和2年(2020年)4月1日に施行されます。
     そのうちでも、個人(保証人が法人ではないもの)の根保証契約(「一定の範囲に属する不特定に債務を主たる債務とする保証契約」・新民法465条の2・第1項)について、保証人は、「極度額」(「主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金または損害賠償の額について、その全部に係る極度額」)を限度として、その履行をする責任を負う(新民法465条の2・第1項)とされています。
     そこで、「個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。」とされています(新民法465条の2・第2項)。ここに「極度額」というのは、要するに「保証人が負う最大負担額」のことです。
     しかも、この「極度額」は、保証契約締結の時点で、確定的な金額を書面(又は電磁的記録)上で定めておかなければなりません(新民法465条の2・第3項で、同446条2項及び3項を準用)
  2. そこで、マンションや借家に関する「賃貸借契約書」において、個人(法人では無く)に連帯保証して貰っている場合も、上記の「個人根保証契約」に該当しますので、新法の適用が問題となります。
      その場合に生じる現実的な問題は以下の様な疑問ではないかと思いますので、色々調べて見ました。
    1. まず、「極度額」として妥当な金額はどの程度か?
        この点については、未だ確定的な見解はありませんので、あくまでも私見ですが、別紙の国土交通省作成の「極度額に関する参考資料」(平成30年3月30日国土交通省住宅局住宅総合整備課)などを参考に考えてみました。
        上記参考資料では、①家賃債務保証業者に対する損害額の調査、②家賃滞納発生に係る調査、③裁判所の判決における連帯保証人の負担額に係る調査の結果が報告されていますが、賃料8~12万円の賃貸借契約の場合には、240万円以下で殆どの場合をカバー出来ているという調査結果が出ているそうですが、更に、下記のような事情も考慮して算出する必要があると思います。

      1. 家賃滞納発生時の「家賃」の金額、解約などを申し入れする時期
      2. 預かり保証金の金額と相殺可能性
      3. 調停や判決などに移行する時期とそのために必要な費用や弁護士費用
      4. 原状回復費用として通常請求している金額
      5. 借家人の故意・過失による修繕の発生確率とその平均的な補修費の額
        しかし、他方で、「極度額」をあまり高く設定すると、「連帯保証人」を引き受けて貰えなくなる可能性があるので、注意が必要です。
        そこで、結論としては、「1か月の賃料金額の2年分~3年分」を目処にして、上記のような「当該賃貸物件の特殊性」などを考慮して決定するのが妥当ではないかと考えています。
    2. 次に、改正法施行前の賃貸借契約が、改正法施行後に「更新」される場合などにも、新民法の「極度額設定ルール」は適用されるのか?
      1. この点、基本的には、新民法は、上記の施工日以後に新たに締結される保証契約に適用されることになりますが、 平成31年3月12日に神奈川県弁護士会で、法務省による改正民法の説明会があり、その中で契約の「更新」と連帯保証人の責任に関する法務省見解の発表があったようです(別紙「民法改正法の施行についての法務省見解と実務の対応」参照)。
      2. 法務省のホームページの中にも「民法(債権関係)の改正に関する説明資料」があります。
        そこで、これらの資料から読み取れる法務省の見解は、以下のようになると思います。
          改正法施行前に締結した「普通借家契約」には、個人の連帯保証人を付けて貰っていた(この時には「極度額」の定めはしていない)が、改正法施行後に「更新」時期が来た。
        ①  そこで、賃貸人は、賃借人と「合意更新」し、「更新契約書」を作成し、連帯保証人にも署名押印させたが「極度額」を定めなかった場合
         ・・・この場合は、連帯保証人も「更新契約書」に署名押印したことで、新規の保証契約を締結したと「認定」されると、更新後の保証債務は無効になる。
        ②  ところが、賃貸人は、「更新契約書」に連帯保証人には署名押印させず、賃貸人と賃借人だけが署名して「更新契約書」を作成した場合には(たとえ更新の事実を連帯保証人に通知したとしても)、保証契約に改正法は適用されないので、連帯保証人は更新後の不払いについて全責任を負う。
        ③  問題は、「自動更新」の場合であるが、法務省見解では、自動更新の特約によって改正法施行後に自動更新された場合には、新規の契約では無く更新前の契約の延長に過ぎないし、更新契約書を作成したわけでもないので、保証契約に改正法は適用されず、「極度額」の定めのない連帯保証人の責任は旧法のまま継続されると考えられているようです。
      3. 以上のような法務省見解には多くの疑問点や異議があります。従って、この問題は、今後の判例の集積などを待って徐々に確定させて行かなければならない問題だと感じています。

        以上

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